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その閃光は黒き稲妻のように、刹那の間で血飛沫の華を咲かせた。
おそらく最後の瞬間まで、円香を捉えていた二つの異形は、自身の身に何が起こったか知る由も無かっただろう。
頭上から地面にまで叩き込まれた二つの衝撃は、暗黒の閃光と疾風の嘶きをもって、粘液の塊と形容し難き異形を灰塵へと変えた。
円香は聞いた。
瞬間、自分に応える声がしたのを。
そして気付いた。
階段から登ってきた、植物にも似た異形達の動きが固まっていることを。まるで、天敵に睨まれて怯えているかのような…
「………え」
そして、視た。
微かな月明かりすら届かない闇の中。
さらに深い闇を纏い、自分を庇うように立ちはだかるソレを、
『………』
座り込む円香は、何も解らぬままその漆黒の後ろ姿を見上げる。
異形に叩き込んだ両腕に彼等の体液を滴らせ、見たこともない革の衣装に全身を纏わせた影。
所々には包帯が巻かれ、その姿は罪を犯した咎人のよう。
背中まで伸びた黒髪は、まるで棘のように刺々しく背中まで下ろされている。
――何処かで、会った気がする。
懐かしいような つい最近のような追憶の直後、
『…これで、二度目だな』
「え……?」
重く、暗く、空間に重くのしかかるような声がした。
その声を聞いたのは、確かに二度目…それはつい最近、夢かと思った光景の中でのこと。
『もう一度…言おう。ようやく見つけた。ようやく、オマエを、ミツケタ…』
「……!」
緊張がほどけかけた円香の躰が再び強ばる。
その言葉を聞いたのも確かに二度目。
一度目は…何かに喚ばれるような悪夢の後のこと…。
「…あなた、は…?」
消えてしまうような声が円香の口から零れる。
聞こえなくても不思議ではない。それほどか細く弱々しい声に…彼は初めて、振り返りながら応えた。
『…オレ、は…‘ジェダス’
我が命は、我が血肉と力は、貴女と共にある…我が主よ…』
その顔に、呪詛のように禍々しく、死者のように深淵に満ちた仮面を纏いながら。
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