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幼なじみで同じ大学の沙耶との電話を終え、円香は奇麗に整ったベッドの上に横たわる。
緊張していて気づかなかったが、今日一日の疲れは結構なものだったらしい。
「…そっか。うん、そうだよね。だって、叔父さんが死んじゃったんだもん」
フゥ と憂いを秘めた吐息が零れる。
同時に、叔父との想い出が円香の頭の中に鮮明に浮かぶ。
小さい頃あんなにお世話になったのに、ここ数年は会ったことはおろか電話一本入れてない。
――私は何をしていたのだろう、せめて一目…せめて叔父さんが死ぬほんの二三日前に何かの気まぐれで会いにいっていたら、彼は喜んでくれたかもしれないのに…。
「叔父、さん…ッ」
視界が滲む。
込み上げる熱いモノを押さえ付ける理性が、今はほんの少しだけ憎らしかった。
気を紛らわそうと、視界を横に傾ける。
部屋の端に置かれた木箱に目が向いた。
「――?」
流行りもなく趣味もない円香の部屋は簡素に纏められているが、それでもその木箱は彼女の部屋には似つかわしくないものだ。
「贈り物って、あれのことかな?」
気紛れのような好奇心のまま、その箱を手にとる。
釘で打ち付けられているわけでもなく、その箱は簡単に開いた。
「…何、これ?」
始めに目についたのは、山のような書類の束。
新聞の切り抜きのようなものもあれば、叔父の字とおぼしき書き込みがされたものもある。
「えと…‘大組織ショッカーの遺跡…’
何処かで聞いた…ような」
パラパラと書類の束を押し退ける。
力づくで押し込んでいた両腕が ゴツリ と、それぞれ違うものに当たる感触を捉えた。
左手を引き抜く。
手に収まるくらいの円状の薄い板だった。ただその手触りは、木材でも金属のものでもない。
「奇麗…」
板に描かれた星形の模様に見とれながら、右手が触れたものをまさぐる。
「…?」
大きめの板だ。しかも表面に妙な凹凸がある。
左手を再び木箱に差し込み、両手で一気に引き抜く。
それは、なんてことない粘土板だった。
強いて言うなら、その表面には象形文字のような彫り絵が施されているくらい。
「何だろう…気味が悪い、ような」
うっすらと、肌寒い感覚が背筋をよぎる。
凝視すればするほど、頭の中のナニカがブレーキをかける。
「…寝よう」
色々 考えて、結局 忘れることにした。
この感覚も多分一時の気の迷いなのだろう。
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