あの日へ

2/14
前へ
/82ページ
次へ
  「一一一…かな…」 誰かが呼んでいる。 優しく、柔らかな声で… 爽やかな風が頬をゆっくり優しく撫で、その人の声が余計に優しく聞こえた。 「……ん…」 「陽奏…やっと起きた。」 「…春、乃…?」 どうして春乃が…? あたし、まだ夢を見ているの? 「陽奏、寝ぼけてる?よく学校の固い机なんかで寝られるわね。」 呆れたようにあたしを見る春乃。 これは夢じゃない…現実だ。 目の前には死んだ春乃がいる… 「春乃…」 「今日の陽奏、変ね。」 優雅に笑う春乃。 初春の季節がよく似合い、歩くだけで老若男女振り返ってしまう。 そんな彼女がどうして死ななくてはならないのか…判らなかった。 「あら、陽奏!」 「…え?」 突然春乃が嬉しそうにドアの方を指差していた。その方を見てみると廊下に総太郎がいた。教科書を持っているのでどうやら移動教室だったらしい。         ・・ 「今日も素敵ね…田宮さん。」 「…え!?」 「どうしたの?」 春乃はまだ総太郎さんのことを『田宮さん』と呼んでいた。あたし達が総太郎さんと仲良くなったのは高校1年生の夏だったのでそれより前ということになる。 何かおかしかった。 陽奏は総太郎の家の階段から落ちた。それに夕方頃だった。 なのに目覚めるとお昼前の学校で春乃がいて、総太郎のことを『田宮さん』と呼んでいた… もしかすると…あたしは…… 1年前に戻っている一一一…? .
/82ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加