14人が本棚に入れています
本棚に追加
「一一一…かな…」
誰かが呼んでいる。
優しく、柔らかな声で…
爽やかな風が頬をゆっくり優しく撫で、その人の声が余計に優しく聞こえた。
「……ん…」
「陽奏…やっと起きた。」
「…春、乃…?」
どうして春乃が…?
あたし、まだ夢を見ているの?
「陽奏、寝ぼけてる?よく学校の固い机なんかで寝られるわね。」
呆れたようにあたしを見る春乃。
これは夢じゃない…現実だ。
目の前には死んだ春乃がいる…
「春乃…」
「今日の陽奏、変ね。」
優雅に笑う春乃。
初春の季節がよく似合い、歩くだけで老若男女振り返ってしまう。
そんな彼女がどうして死ななくてはならないのか…判らなかった。
「あら、陽奏!」
「…え?」
突然春乃が嬉しそうにドアの方を指差していた。その方を見てみると廊下に総太郎がいた。教科書を持っているのでどうやら移動教室だったらしい。
・・
「今日も素敵ね…田宮さん。」
「…え!?」
「どうしたの?」
春乃はまだ総太郎さんのことを『田宮さん』と呼んでいた。あたし達が総太郎さんと仲良くなったのは高校1年生の夏だったのでそれより前ということになる。
何かおかしかった。
陽奏は総太郎の家の階段から落ちた。それに夕方頃だった。
なのに目覚めるとお昼前の学校で春乃がいて、総太郎のことを『田宮さん』と呼んでいた…
もしかすると…あたしは……
1年前に戻っている一一一…?
.
最初のコメントを投稿しよう!