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「総……コホン!…田宮さん…」
危ない、危ない。
まだ総太郎さんとは仲良くなる前だから馴れ馴れしく名前を呼んではいけなかった。
わざとらしく咳ばらいをして言い直し、目の前まで来る総太郎を待った。
「未羽瀬さん、大丈夫?」
「…え?」
「今日の授業。ノートとかプリント、写せてないよね?」
やっぱりばれていた。あの日もばれていて、ノートとか貸してくれたんだっけ…?
「あ~…判った…?先生のスピードに全然ついていけなくて、この通り真っ白よ。」
あたしは自分のノートを見せて、情けなく笑って見せた。
「中泉先生、早いもんね。僕も初めての授業で慌てちゃった。」
「田宮さんも…?」
「うん。あ、その呼び名はちょっと…"総太郎"って呼んでくれると嬉しいなぁ。」
少し照れたように頭をかく総太郎さんを見て、あたしもあの頃のように微笑んで頷いた。
「判ったわ。総太郎さんね!あ、あたしのことは…」
「"陽奏"…でいい…?」
総太郎は怪しく微笑む。その微笑みにあの日も今も気付くことはなかった。
「あ、はい!」
「…出来れば、敬語もやめてね?…"陽奏"。」
はい、と手渡された総太郎のノート。受け取ると少し微笑んで彼は自分の教室へと歩いて行った。
あの日、総太郎さんの笑顔の意図に気付けていたら…
現実は変わっていたのかな…?
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