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ガレンは無言でシャオを睨み付けたのだ。
それは怒りの度合いを示し、段々と強まって行く。
だが、不意に小動物が唸るような音がガレンの腹部から鳴った。
一気に二人の視線がガレンに集まる。
「……ぷっ……」
シャオは溜まらず吹き出した。
そして、可笑しくて堪らないといった顔をしながらも、持っていたパンをガレンに差し出す。
それに恥ずかしさで俯きながらも、ガレンは素直にパンを受け取った。
何よりも先に腹の虫を黙らせなければならない。
そう思い、パンを口に運ぼうとしたガレンだったが、直前で或る事実に気付いた。
欠けているのだ。
つまり、それはシャオの食べ掛けという事だ。
「あ、り、が、と、な……」
口元を引き攣らせ、皮肉を含んだ声で礼を言うガレン。
そして、半ば捩り込むかのように、自身の口にパンを放り込んだ。
噛み砕き、ガレンはシャオを睨み付ける。
それは流石に申し訳無く思ったのか、シャオは苦笑いを浮かべていた。
それでも何も言わないのはただ単に面白がっているからかも知れない。
……この二人なら……大丈夫そうですね……。
端からは兄弟のような、友達のような、そんな微笑ましさの見える二人を眺めながら、クリスは僅かに微笑んだ。
そして、暫くの間そんな二人の様子を眺めていたクリスだったが、突然意を決したように部屋から出て行った。
何も言わずに去ったクリスを不思議に思ったのか、ガレンとシャオの二人はクリスの消えた扉を眺めている。
それでも、それ程経たずしてクリスが戻って来た。
その手には先程まで持っていなかった筈の物が握られている。
「……ガレンさんの刀、お返しします」
そう言って差し出されたのは、納刀状態の一振り。
クリスの言った通り、薄蒼い鞘に納まってはいるものの、それは間違い無くガレンの刀であった。
鞘から覗く炎の滾りにも似た刻印は、鞘の色と合ってはいないが、異質な存在感を放っている事には変わり無い。
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