崩される平穏

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崩される平穏

血。 視界を覆う残酷な赤。 それは鉄の臭いを漂わせる。 そして、目の前に広がるそれは絶望となる。 流れ出す命。 失われる温もり。 死を形として示す物、それが血の正体だ。 刀を振った先、それはそこに顕現する。 何の為に刀を振るのか。 何の為に刀を手にするのか。 それは護る為だ。 命だけでは無い。 そこに在る感情もだ。 怒り。 奪われた理不尽を相手に刻み付ける為、目の前に血を欲する。 悲しみ。 殺された痛みを胸に抱き、二度目を見ぬ為に血を止める。 恐怖。 目の前の血に慄き、そこから逃れる為に足を動かす。 どの感情も、血が最大の引き金となる。 それは死を連想させる。 それは脳裏の深くにまで焼き付く。 そして、それが人の心を限界にまで爆発させる。 心を突き破った感情は、外で意志を示す何かとなる。 それが現れた時、もう後戻りする事は出来無い。 その人間は、既に『人』という定義を失ったのだから。
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