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サクア。
それは周りを山に囲まれた辺鄙な村。
その為、そこは当然のように交通に不便を来し、決して栄えているとは言えない閉鎖的な村だ。
木造の古風な家が疎らに点在し、自然と調和の取れた様相を示している。
村から出れば、視界に入るのは深緑に揺れる木々の葉ばかりで、人工物など見当たらない。
そんな隔離された村の中で、赤髪の青年は大通りを歩いていた。
大通りと言っても、それはこの村にとってであり、決して一般的に大きいとは言えない。
周囲に人は無く、一見して居るのはその青年だけだ。
青年の歳の頃は十八、九であろうか。
整った顔立ちに、首に掛かる長めの赤い髪は風に揺れ、見る者に少しの感嘆を与える。
だが、青年の眼は独房の淵のように寂しさに伏せられ、その印象を相殺していた。
その眼は前を見ているようで、見ていない。
虚ろにも似た、生気の薄い混濁の色だ。
その青年の服装は肌を晒した軽装で、特に飾る気配も無く、見た目に動き易さを重視している風であった。
色に派手さは無く、どちらかと言えば目立たない地味な色である。
その所為か、髪の色が余計に目立って見える。
そんな少し異質な雰囲気を持つ青年は、歩きながら周囲を見渡し、小さく溜め息を漏らしていた。
周囲には誰も居ない。
いや、正確に言えば、青年が大通りに現れたのと同時に、大通りに居た筈の村人達は一様に隠れるようにして家の中へと戻ったのだ。
「…………まぁ……、もう好い加減慣れたか……」
諦めた風にそう呟いた赤髪の青年だったが、やはり心底慣れ切っている様子は無く、その表情には寂しさが増していた。
青年は重い足取りのまま通りを進む。
そうしてふと顔を上げた先に唯一こちらに向かってくる人影に気付いた。
「おーい、ガレ~~ン」
そう間延びした声を上げ、手を振りながら近付いて来たのは一人の女の子であった。
この女の子も青年と同様十八、九歳くらいに見え、美しく蒼い髪を背中まで伸ばし、宝珠のような深い蒼の眼を嬉々と輝かせていた。
それも相俟ってか、太陽の光を反射する長い髪は、透き通るような蒼を更に美しく見せる。
服装は水玉模様のワンピースで、女の子は裾を揺らすのも気にせず、青年の許へと駆けて来た。
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