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彼女達の真意がまるでわからない。
ハイネは不可解な気分で一杯だった。
ただ倒れていただけの見ず知らずの人間にこうも親切にするのが人間という種族なのだろうか。
そうなると事前に調べてきた正史とは随分違うこととなる。
ハイネの調べた文献によると人間は戦争ばかりして、まるで成長しない種族というイメージがあった。
もっとも、戦争に関してはどの種族も行うが、同族間の戦争がこれほど頻繁に行われているのは人間ぐらいだろう。
それが、どうして?
非力な身で野蛮な種族がどうして彼には親切にするのだろう。
「ハイネさまー。座って下さいよぉ」
耳元からする声にハッとして、ハイネは席に着いた。
考え事をしていると周囲の情報に目も耳も向けなくなってしまうこの癖は困りものだ。
「どうぞ」
隣りに立っていた男が始めて声を発した。
テーブルの上に置かれた紅茶はうっすらと湯気を上げ、上品な香りを漂わせている。
「私はロイド・アルトマイアと申します。レイシアお嬢様の執事、と言ったところでしょうか。御用の際は何なりと」
ロイドは軽く微笑み、会釈してその場を離れた。
若輩の身ながらよく出来た使用人なのではないだろうか、とハイネは素直に捕らえた。
吸血鬼、いや、人間種が魔物と呼ぶ者達の世界では家臣など6割方謀反を考えているような輩だ。
ただ、実際に反逆しないのは王や格式の高い人物は大抵が強者だからだ。
個にして群を制するのが魔物の王たる資格と言ってもいいだろう。
だからこそ、ハイネは王にはなれなかった。
半端な身で半端な力しか扱えないからだ。
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