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「ハイネ様は街のどこに用事があるのですか?」
「魔物の討伐を研究してる施設、みたいなところに案内してくれると助かるよ」
ハイネはそっとカップを取った。
彼自身、特に意識したわけではないのだらうが、カップを手に取り、口元に運ぶその一連の動作は王族なような品に溢れていた。
どこかの街の上級貴族なのだろうか、とマーサはあたりをつけた。
「魔物の討伐研究ならどこの街でもされている筈ですが、どうしてヒースグランなんでしょうか?」
「文献を調べるとわかるんだけどね、この街は騎士団の派遣要請が一番少ない街なんだよ。妖精の森を隔ててすぐ先は魔物の巣窟だっていうのに」
「たぶん、巫女様がいらっしゃいますからね」
かかった。
内心でハイネはほくそ笑んだ。
「巫女?」
「はい。魔物の魔術を抵抗する血を持つ巫女様がこの街を守ってくれてるんです」
抵抗するのは吸血鬼のみではないのだろうか、とハイネは考えた。
彼女の言い回しだと、全ての魔物に共通のように聞こえる。
「その巫女が、結界でも貼ってるの?」
「結界はもちろん。直に戦う事もあるそうですよ」
なるほど、不可視の魔術でもかけているのだろう。
この様子では彼女が知っている可能性は低い。
深く追求して怪しまれるのもよくない。
ここらで話を切り上げるべきだろう。
「それはすごいね。この街だけの騎士みたいなものか、なるほど。是非お会いして話をしてみたいよ」
「会うのは難しいと思いますよ。多忙、というか色々よくない噂も聞きますし。取り敢えずお食事お持ちしますね」
マーサはキッチンに行き、軽食の仕度を始めた。
思ったよりも首尾は上々。
腑に落ちないところもあるが、上手くいきそうだ。
ハイネはもう一度カップを手に取り、ゆっくりと紅茶を飲み干した。
悲願がもう少しで叶う。
知らずに彼は笑っていた。
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