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黒い木々の合間を縫うようにして僅かな月の光が森に差し込んでいた。その朧気な光の元では長いマントを羽織った少年と黒いドレスを見に纏った少女が相対している。
底の見えない崖を背にして立っているのは細身の少年。砂金のように艶やかな金髪をした美少年の表情は今にも崩れそうなほど険しい。
少年に対して少女は能面のように味気の無い表情でただ少年を見据えているだけ。ただ少女の手に握られている十字架を象ったような細身の剣が月光の元で鈍い煌めきを放っていた。
しかしその無表情も武器の形も少年にはわからなかった。
相手が人なのか、魔族の一派なのか。
手に持っているのが武器なのか、鋭い爪なのか。
全て逆光と夜の闇が邪魔をして少年に真実を見せようとはしない。
少女が地を軽く蹴り飛ばした。
途端――
静寂すら切り裂く斬撃が少年を襲った。
薔薇の花びらなような血の結晶が、夜の空にばらまかれる。冷たい漆黒に溶け込むようにして飛び散る真紅は薄れていく。
目にも止まらぬ斬撃が宙で炸裂したのだ。肩口から袈裟に切られた少年は咄嗟に後退り、次の攻撃に備えた。ぐにゃり、と歪められても尚、その美貌は影を落とさない。、分厚い曇が大空を閉ざしていた。
満月が、見えない。
ふいに少年の目が黄金の輝きを灯した。同時に金色の髪にはルビーのように禍々しく朱に染まった房が混じる。
少年の流線的な撫で肩のやや後ろ側からは白い皮膚を劈いて黒い翼が胎児の如く現れる。
赤黒い妖気が森の中に渦巻き、宙を焦がした。
少年の変貌を黙って見届けた少女はそこで始めて、表情らしい表情を晒した。
何も感じない仮面に色が点ったのだ。
それは軽蔑と歓喜、そして何より深い憎悪が込められていた。
少女の漆黒の瞳が赤く染まっていく。少女は握った剣を構え直して、深く息を吐いた。
再度駆け出した黒いドレスの少女。一分のためらいすら無く刃を振り下ろす。
少年は落ち着いた様子で左の翼を持ち上げて剣撃を防ぐと、少女に向かって右腕を伸した。
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