Ⅰ.Half Blood

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    いつも見る夢は同じだ。 いや、同じと言うには語弊がある。 例えば夢の舞台は違うかもしれない。夢の登場人物も違うかもしれない。 それでも、彼にとっては同じ夢に過ぎない。 どこで、誰が出て来ようと彼等は笑ってくれるのだ。現実では彼が見た事の無い笑顔で。 だから、同じだった。 夢の世界は平等で、誰も彼を蔑みはしない。誰も彼を異端扱いしない。 だから、優しい夢は好きだった。   だから、夢から覚める事を拒んでいた。       ――ねぇ。     誰かが話しかけてくる。 誰だろう、と彼は疑問を抱いた。     ――起きてるんでしょ?     瞼の上に僅かにかかる気配は柔らかくて、優しい。 彼が感じた事のない空気だ。     ――起きてよ。     この声が現実なのか夢なのか、彼には判別がつかなかった。 ただ、今はこの優しい空気に溶け込みたい。そんな気分だ。     「起きないなら――」     ふいに、言葉がハッキリと輪郭を帯びた気がした。 そう感じた直後、ぱっと温もりが去って行ったような気がして彼、ハイネ・ヴァレンタインは手を伸した。   「待って!」   伸した手は、虚空を掴んだ。どっと溢れ出す汗が彼の額を伝う。 ハイネの蒼い瞳に、誰か見知らぬ少女の驚いた顔が映りこんだ。 長い睫毛の、可愛らしい少女だ。 まだ大人になりきれない雰囲気が、美しいではなく可愛いの形容詞をハイネに連想させた。   「……誰?」   間近に見える少女の事を、ハイネは知らない。ハイネは伸した右手を引っ込め、のっそりと起き上がった。   「誰、ね。それ私の事?」   少女が可愛らしく首を傾げて尋ねる。 ハイネの他にこの場にいる人間は少女だけだと言うのに、少女はそんな事を言った。   「君以外に誰がいるんだ……?」   言われて少女は辺りを見回す。 ぐるり、と一周眺めてから少女は満足気に頷いた。   「私だけじゃん」   そうだね、とハイネは相槌を打って少女に自己紹介を促した。   「私はレイシア・ヴァーリンデ。君は?」   「ハイネ・ヴァレンタイン。ここはどこ?」    
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