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少女と同様に、ハイネはこの部屋も知らなかった。少女は手に持った毛布をぱたりと丁寧に畳んでハイネの足元に置いた。先程ハイネが遠ざかっていくと感じた温もりはどうやら毛布のようだ。
「ここは私の家だよ。君は3日前ぐらいに村外れの川のほとりで倒れてたから連れてきたの」
川のほとり、ハイネは意識が消える以前の極めて朧気な記憶を呼び戻した。
ある理由のためヒースグランという村に行く途中、妖精の森で黒い髪に紅い瞳をした黒衣の少女に襲われたのだ。
彼女が何者なのか、彼にはわからない。
一人で思案する彼をじっと二つの眼が見つめる。ただ見られている、というのも気分のいいものではないのでハイネも向けられた視線をお返しする。
「何か……?」
「いや、何考えてるのかなーって思っただけ」
「何でもない。それより世話になった。ありがとう。僕はもう行くよ。この御礼はいま少し待って欲しい」
ハイネは立ち上がると椅子の背にかけられた自身の服に袖を通して、そこで気が付いた。
「この服、君が直してくれたのか?」
ハイネの服は黒衣の少女との戦闘で大部分千切れたりしていたはずだ。それがどうだろう、傷は見当たらず、新品のように綺麗な状態でハイネの服は置いてあるのだ。
「うーん。私洗濯とかできないし。マーサがやってくれたんだと思うよ。でも中のシャツはボロボロで血塗れだったから別のものだけどね。あ、サイズは合ってるよね?」
「あぁ……何から何まですまない。お陰で助かった。ありがとう。今は持ち合わせがないけどいつか絶対に礼はする。それじゃあ」
素早く服を来て、上着を羽織るハイネの肩に細い指がかかり、そのままぐっと後ろに引かれた。少女の細腕に似合わない剛力にハイネは目を丸くして驚いた。
「ちょっと待って。あなたはまだ怪我人なんだから動いちゃ駄目。確かに華奢な体な割には回復が早いけど今無理したら後で大変な事になるよ」
叱り付けるようなレイシアの瞳にハイネは戸惑った。
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