Ⅰ.Half Blood

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    なにせ、ハイネは生まれてからこの方叱られた事など無いのだ。それは甘やかされて育ったからではない。ハイネの周囲の誰もが彼に興味などなく、ただ侮蔑と嘲笑の籠った視線を向けるだけだったのだ。   「心遣いは感謝する。だけど僕は急いでるんだ。行くべき場所があるからね」   ハイネはそう言って肩にかかる手を優しく振りほどくと、扉の取っ手に手をかけた。そんなハイネの姿をムスッとした表情のレイシアが睨み付ける。   「行きたい場所ってどこ? 3日以上寝てたんだから約束とかしてても意味ないよ」   「約束はない。けど行かなきゃいけないんだ。ヒースグランへ」   それは一種の脅迫観念のようにハイネにのしかかる義務だった。 ヒースグランへ行き、ある人間を殺す。そうすれば、ハイネは認められる。自分の兄弟からも、街の誰からも。 そのための重要な任務の遂行のためにこんな所で立ち止まる暇は無いのだ。   「なぁんだ。なら大丈夫だよ。ここがヒースグランだから」   扉の取っ手にかかっていたハイネの細い指がぽろり、と力無く落ちる。後ろで楽しそうに笑っている少女の話が本当なら、労せず自分は目的の地に着いたのだ。   「……本当か?」   「うん、本当だよ。何しにこの街に来たの?」   ハイネは返答に困った。正直に話すのは良くない。いや、むしろ不味いくらいだ。この街にいるある人物を殺しに来ました、など言える筈もない。 一人考えにふけるハイネの頬をレイシアがつんつんとつつく。 ハイネは気付かない。ただ考えこんでいるだけ。 やがて痺れを切らしたレイシアがハイネの肩を揺さぶった。   「ねぇーどうしたの? 目的忘れちゃった?」   そこで始めてハイネは我にかえり、しどろもどろになりながらも答えた。   「あ、あぁ……ちょっと人探しをしてるんだよ。でも実は僕もあまり知ってるわけじゃなくてね。聞き込みから始めようかな、って」   「それってどんな人?」   可愛らしく首を傾げるレイシアを見てハイネはしまった、と顔をしかめた。本筋こそ話してはいないがこの言い方では詳しく追及されるのは当たり前ではないか、と自分らしくない失態に心中で反省しつつ、ハイネは次に話すべき事を考えた。    
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