Ⅰ.Half Blood

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    「魔術師かな。それも生態関係に詳しい人。悪魔(デモン)とかオークとか吸血鬼(ヴァンパイア)とかそういうのの討伐方法を僕は研究してるんだ。それでこの街にはそういった研究をしてる人が多いって聞いたから」   嘘は付いてはいない。だが、真実かと問われればそうではない。ハイネの目的、それは吸血鬼殺し《ヴァンパイアキラー》の巫女の抹殺だ。   そもそも吸血鬼という種族は人間、魔族含めて最上位種にあたる生物である。人語を理解し、莫大な量の魔力(マナ)を扱い、そして人間種よりも遥かに強靱な肉体を持っている。   相手が神級の魔族でない限り、吸血鬼は他の種族に対して後塵を拝す事などありえない。それが一般的な見解だ。   しかし、最近に至ってはそうではない。あらゆる側面から見て吸血鬼種よりも劣る人間種に異端が生まれたのだ。それは先天的に魔力(マナ)の収集量が多く、魔導に長けた者や、魔術こそ行使できないが魔力(マナ)を極限まで練り固めて自身の武器として扱う騎士。   何より吸血鬼種にとって脅威となるのは吸血鬼の魔力(マナ)を拒絶する血を持つ巫女の存在だ。   その巫女の抹殺のためだけに、ハイネはヒースグランまでやって来たのだ。   おそらくは妖精の森で出合った黒衣の少女がその巫女なのだろうとハイネは考えている。   あの時、ハイネの翼は少女の刀を受け止める事が確かにできた。しかし少女が手を翳したとたん翼は呆気なく刀に刺し貫かれてしまったのはそういう理由だろう。   「それじゃあありがとう。また礼をしに来るよ」   去ろうとするハイネの肩にまたもレイシアの細い指が掴みかかる。   「お礼なんていらないよ。それよりこの村で研究するならここを拠点にしてもいいよ。この部屋使ってないし。簡単な食事ぐらいなら出すから」   「そういうわけにはいかないよ。これ以上世話にはなれない」   それは本心からの言葉であると同時に、これ以上の詮索を防ぐための口実であった。これ以上深くこの村の人間と関わると成すべき事をし辛くなるのではないか、という危惧もあった。    
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