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「……初めてだよ。あなたみたいな人」
ポツリと少女が漏らした。
何の事かわからず、ハイネは首を傾げる。
「柔らかそうに見えて結構強情なのね。わけありなんでしょ?」
「別に、そんな事ないよ。犯罪者とかだったらこんな悠長にしてないだろうしね」
ははは、と整い過ぎたくらいの美貌を皮肉気に笑わせる。
ハイネにとって、自分をここまで引き止める人、というのは初めてであった。
もっとも、彼にの知る人、は吸血鬼であって人間種は実の母親しか知らない。
「でも、秘密を持ってる」
「……秘密のない人間なんて、逆に不思議さ。気持ち悪いくらいだよ」
「詮索は、しないよ。だから気が向いたら戻って来て」
レイシアはそう言うと、にっこりと微笑んだ。
もしかすると本当に、何の見返りも求めず、それでいて彼の素性にすら興味はないのかもしれない。一瞬そんな考えがハイネの頭を過ぎった。
彼女なら、いいのではないか?
いや、そんな筈はない。
彼女にもまた、何か打算的な何かが働いているに違いない。
それか彼女の背後に誰かがいるか。
「ありがとう。その気持ちは本当に嬉しいよ。でもその……少し、出掛けさせて欲しい。別にやましいとかじゃなくて、僕の研究を心待ちにしてる人達がいるんだ」
「わかったよ。じゃあ、危ない事しないように御供をつけるわ。異論は認めないから」
レイシアは丸テーブルの上に置いてあるベルを軽く振った。
チリン、と僅かな音色が響き、そして部屋の扉が開いた。
当然、扉の前にいたハイネは木製の扉に激しく顔をぶつけ、苦悶の表情を浮かべる。
「何か御用でしょうかッ?」
シュタッという効果音が似合いそうな敬礼と共に一人の少女が姿を現す。
短い髪の毛をふんわりとさせている可愛らしい少女だ。
年はレイシアと同じくらいだろうか。
それでも、今現れた彼女の方が幾分か幼く見えるのは恐らく落ち着きがないせいだろう。
ソワソワとしながらレイシアの返答を待っている。
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