プロローグ

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ひどく、視界に霧がかかっている。 痛みは遠退き、僅かに動く手を伸ばした先に、赤いランプが近づいて来るのがかろうじて見えた。   決意ならした。 あの本を読んでから、俺は本当に長い間、頭を悩ませていたのだから。   迷いはあった。 間違っているのは自分かもしれないと、何度も、そんな疑念に苛まれた。   けれどまた冬が過ぎ、最後かもしれない春が来て、それからはずっと、今日が来るのを待っていた。     自信はある。 本当は、そう言い切れるようになっていなければならなかった。   けれど今日を迎えるまで、三年の間必死に考えを巡らせても、他にいい策を思い付きはしなかった。     だから本当に、これで全てを変えられるかは、俺にだって解らない。 それでも俺は、これに賭けるしかなかった。     覚悟なら決まっていた。 それに、由を残し家を飛び出した時点で、引き返せなくなってしまったことは解っている。     けれど今になって、一つだけ思うことがある。 最後にもう一度だけ、愛していると伝えれば良かった。   ――由   今はそれが酷く、心残りで仕方ない。 だって俺はもう二度と、その言葉を口にすることはないのだから。
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