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蔵にあるあの本のどれかを――もしかしたらすべてを――読んでいるのだとしたら、それはこれから先に起こる事を、そして自らの死期を知っているのだということになった。
隣に座っていた姉が、殆ど手のつけられていない食事に手を合わせ、席を立ってゆくのを見送りながら、俺は残しておいた沢庵に手を伸ばした。
よそ見をしていたせいか、箸の間を抜けて卓の上に落ちたそれを、皆が見ていないのを確かめて、そっと口に運んだ。
普段ならすぐに見咎めて口煩く言うおばさんも、小突いてくるはずの母も、気づかないのか何も言わない。
それは今日と言う日の、そしてあの本を読んだ身でありながら、こんなにも落ち着いている自分自身の異常さを物語っているのだと、その時俺は思った。
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