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五月雨の降る夕刻に、一つ目小僧は嘲笑われていた。
道行く人々が和傘を差しているのに対し、小僧は両手を空けている。びしょ濡れだった。
しかし、小僧は気にしない。濡れることなど、どうでもいい。
ただ、不思議に思うことはあった。
すれ違う町人が、自分を盗み見て忍び笑いを漏らしているのだ。
雨音に隠れて、空気よりも湿った笑い声が響く。
一つ目小僧は、二つの目を持つ人間に、何を笑われているのか疑問だった。
しかし小僧は、ある音を耳にした途端、悩み事を忘れてしまう。
どこからか、鶯(うぐいす)の鳴き声が聞こえてきた。
その声の美しさに、小僧は足取りを軽くする。陽気に歩を進めていった。
人間の上げる嘲笑が大きくなったが、全く気にしない。
一つ目小僧は、気が付くと寺にまで足を運んでいた。
鶯が、法華経(ほけきょう)と鳴いた。
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