一つ目小僧の双眸

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   翌朝、一つ目小僧が目覚めた時、寺の中にあの僧はいなかった。  一つ目小僧は、外へ出る。雨は降っていなかった。蝉が鳴いている。声はあるが、姿は見えない。  小僧は町へ散歩に出かけた。人間に見付かるなり、静かに笑われる。  小僧は、頭を悩ませた。  何で自分が笑われているんだろうか。可笑しいところが、自分にあるのだろうかと、小僧は考え込む。  しかし、答えが見付けられなかった。その代わり、あることに気付く。  自分には目が一つしかない。しかし、笑みを浮かべる人間は目が二つある。目が多いと、風景が違って見えて、自分には見えない可笑しなことが、見えるのではないか――  小僧は手を打つと、自分と同じ背丈の子供を捕まえ、右目をくりぬいた。  泣き叫ぶ子供を気にせず、自分の右頬に穴を空け、二つ目の目玉をはめ込む。  双眸を手に入れた小僧を待っていたのは、町人の暴行だった。  化け物め、と町を追い出される。  小僧は、山奥で一人泣き喚いた。  顔の真ん中にある左目から、涙をぼろぼろと零す。  小僧は今まで、五十年間生きてきた。追放されたのは、初めてである。  町の子から目を貰うのは、名案だと思っていた。罪の意識なんて、鶯の涙ほどもない。  小僧は、泣き続けた。  彼は今、化け物なのだろうか。
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