一つ目小僧の双眸

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   翌日、また雨が降った。  鶯と蝉が、鳴き叫ぶ。雨雲を引き裂くような声だった。  小僧は、思い出す。琵琶を弾いていた僧のいる寺を目指し、走り出した。    境内では、男が琵琶を抱いてじっと座っていた。目は、やはり開けていない。  小僧は男に近付くと、覗き込むように顔を見詰めた。瞳を閉じた僧に、小僧は声をかける。  しかし、男は口を開かなかった。  小僧は思う。もしやこの男、目が一つもないのではないかと。  少しして、男は右手を動かした。銀杏の葉の形をした、大きな撥が握られている。  寺の外では、蝉の声と雨の足音が響いている。  鶯は、鳴いていなかった。  琵琶法師は、無言で弾き続けた。弱々しく、女々しく、弦をはじく。  その音色は、梅雨のように艶かしかった。小僧の心に、雨脚を見せる。  鶯が、法華経と鳴き出した。
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