一つ目小僧の双眸

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   追放された翌日から、小僧は寺に住み始めた。  会話こそなかったものの、小僧と僧は少しずつ心を通わしていった。  一ヵ月後、琵琶法師は息を引き取った。老衰である。  その次の日、小僧は亡くなった。老衰である。  小僧は、五十年間生きていた。  あと、数百年は生き続ける筈だった。    夕立の降る町中では、鶯と蝉の鳴き声が響いていた。  法華経と、鶯は鳴く。  心持つ存在は、全て成仏されると言われているが、あの小僧は今どこに居るのだろうか。  今宵鳴いている蝉は、一ヶ月前、一つ目小僧が聞いた蝉である。  蝉の成虫は、人間の手にかかると直ぐに死んでしまう。  あの小僧は今、妖怪なのだろうか。
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