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華がティーカップの紅茶をすべて飲み干したのを見た棗は、華から空になったティーカップを受け取って北村に渡した。
「良い子だ、華…」
華の耳には聞こえない様な小さな声でそう呟くと、棗は廊下に通じる扉を開けた。
「華、こっちだ」
やっと帰れる……
そう思い、華はベルが自分に着いて来ようとするのを一瞬見ると、棗が開けた扉を目指して歩いた。
さっきまで自分がいた部屋の隅から目指す扉までは少し距離がある。
足を進ませる中、華は自分の体に違和感を覚えた。
体が重い…?
頭の中がぬるま湯に浸かった様にボーッとする。
華はやっと着いた扉の取っ手を掴もうと手を伸ばす。
「華、僕はズル賢いんだ…」
「え……きゃっ!!」
視界が歪み、取っ手を掴む前に華の体は傾いた。
それを棗が小さな体で支える。
「おやすみ、華…」
棗の腕の中で小さな寝息を立てて眠る華…
「坊ちゃん…」
北村は華が飲み干したティーカップの縁に付いていた白い粉を見た後、愛しそうに華を見つめる棗を眺めた。
白い粉……そう、棗は睡眠薬をこっそりと華に渡す紅茶の中に入れたのだった。
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