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「よし、行くか!」
鍬(クワ)と籠(カゴ)を持って、滑りの悪くなった硝子扉を横に押して行く。
「今日も良い天気…」
少し霧がかかっている空を眺めて華は呟いた。
「ベル、おはよう…」
柴犬のベル…
二年前、山道を散歩していた華が拾ってきた犬だ。
薄茶色の体を丸めて寝ているベルを撫でて、華は数軒先の畑へ向かった。
自然に囲まれたこの村では作物が良く育つ。
自分で一から育てた野菜を、華は嬉しそうに収穫していく。
「ベル起きたかなぁ?」
本日の収穫で一番大きな大根を抱えて華は来た道を戻っていた。
しばらくすると、ベルの吠える声が聞こえた。
ベルは滅多な事がない限り、吠えたりしない大人しい犬だ。
華は不思議に思いながらも、畑道を歩いた。
「あ、原田のじっちゃん!!」
「おぉ、華ちゃん。
華ちゃんの家の前にえれぇでっかい車が来とるんだぁ」
「え…」
同じ様に鍬を抱えた男性の横を通り過ぎると、本当に見た事もないような大きい車が家の前に止まっていた。
大きいってゆーより長くない?
これ…リ、リムジンとかいう車じゃ……
そんな事を考えて足を止めていると、ドサッという音とベルの苦しそうな鳴き声が聞こえた。
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