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「ごめん、長いこと手伝ってもらって」
「や、逆にあたしこそべらべら喋って結局ジャマしちゃってマジごめん!」
「ううん、全然。富永さんとこんなに話したの初めてだけど楽しかったよ」
あまりにも素直にそう言う彼に、私は恥ずかしいようなくすぐったいような高ぶりを感じた。帰らなければいけないのが残念なような気さえした。
雨足は衰えておらず、校舎は湿り気を帯びていた。うっかり転んでしまわないよう注意しながら下駄箱まで足を運ぶ。
「げっ……うっそマジで?」
下駄箱に着くなり途方に暮れた。
「どうした?」
「傘パクられた……」
お気に入りの赤い傘は、まるで始めから存在しなかったかのようにあっさり姿を消していた。
パクられたとすぐに決め付けたのは、それだけ治安の悪い学校だからということだ。失ったショックは大きかったが、つっ立っていても傘は戻ってはこない。
「ごめん、あたし駅まで走るから、じゃあね!」
意を決して外に踏み出そうとした。
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