会話

5/5
前へ
/52ページ
次へ
「あっ待って!」    突然思いもよらず腕を掴まれた。掴んできた力は加減されていたので痛くはなかったが、その手は大きくてまぎれもない男の手という感じだった。   「……ごめん。いや、どうせだから駅まで一緒にと思って」    反射的に出したその手を慌てて引っ込めながら、下向き気味に彼は言った。言葉を必死で選んでるようだった。  つまり1本の傘に2人で入ろうということなのであろう。   「いいの?ありがとう」    不自然にならないよう言葉をつむぎ、私達は一つの傘を咲かせて駅までの道のりを歩いた。  私は何気ない調子で切り出した。   「あのさぁ……あたし男女関係なく友達とかみんな下の名前で呼んでんだけど、孝太って呼んでいい?」    馴れなれしいかな。口に出してからそう思った。   「いいよ。じゃあ僕も富永さんのこと楓って呼んでいい?」         ***    それからというもの、私は朝の電車を1本早く乗るようになった。  反対車線から孝太を乗せた電車が来ると、Bカップの胸が高鳴った。  休み時間は京香達や他のクラスの友達といるし、帰りも京香達と一緒だ。だから孝太とまともに話せるのは朝ぐらいで、その短い時間の中で私と孝太の距離がどんどん近付いていった。      そうして1ヵ月とちょっと一緒に通う朝を続けた頃、私は告白した。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

524人が本棚に入れています
本棚に追加