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「あっ待って!」
突然思いもよらず腕を掴まれた。掴んできた力は加減されていたので痛くはなかったが、その手は大きくてまぎれもない男の手という感じだった。
「……ごめん。いや、どうせだから駅まで一緒にと思って」
反射的に出したその手を慌てて引っ込めながら、下向き気味に彼は言った。言葉を必死で選んでるようだった。
つまり1本の傘に2人で入ろうということなのであろう。
「いいの?ありがとう」
不自然にならないよう言葉をつむぎ、私達は一つの傘を咲かせて駅までの道のりを歩いた。
私は何気ない調子で切り出した。
「あのさぁ……あたし男女関係なく友達とかみんな下の名前で呼んでんだけど、孝太って呼んでいい?」
馴れなれしいかな。口に出してからそう思った。
「いいよ。じゃあ僕も富永さんのこと楓って呼んでいい?」
***
それからというもの、私は朝の電車を1本早く乗るようになった。
反対車線から孝太を乗せた電車が来ると、Bカップの胸が高鳴った。
休み時間は京香達や他のクラスの友達といるし、帰りも京香達と一緒だ。だから孝太とまともに話せるのは朝ぐらいで、その短い時間の中で私と孝太の距離がどんどん近付いていった。
そうして1ヵ月とちょっと一緒に通う朝を続けた頃、私は告白した。
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