2.たったひとつの記憶

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目の前には、ささやかな夜景が広がっている。 住宅、スーパー、小さなビル、小学校。 さっきまでクシャミをしていた圭介が何故寒いベランダにいるのかというと、一紗がそこに居たいと言ったから。ただそれだけ。 夜風が吹いても、手すりに腰掛けている一紗の長い髪は揺れない。 だけど、その瞳にわずかな街の光を映しながら、一紗は語った。 いつの間にか、自分が存在していたこと。 結構長い間、ふらふらと歩き続けていたこと。 犬と話せたこと。 「ケイスケは私の友達なの?」 「…―うん。」 「友達…。」 その輝く瞳はあの頃と何も変わっていない。 「嬉しいな。やっと友達に会えた。」 その、笑顔も。
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