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「一紗?」
呼ばれて我に返った。
「中入らないの?」
ケイスケが顔だけベランダに出して尋ねる。
「あ、ううん、もうちょっとここに居る。」
「わかった。ごめん、窓閉めとくね。」
静かな音を立てて、ガラス戸がぴったり閉じた。
聞こえるのは、ガラス越しの鼻歌と、風の音。
一紗はいつの間にか右手を握り締めていることに気づいた。
その手をゆっくりと開く。
一枚の薄いピンクの花びらが、夜風に攫われていった。
花びらを目で追ったが、すぐに見失った。
また、冷たい風が吹いたけれど、一紗がその冷たさを感じることはなかった。
でも、花びらを握っていた手のひらは、ほんのりと温かかった。
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