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『あの木は、「恋人の木」と呼ばれていたんだ。言い伝えによると、昔この地に、身分の違う二人の男女がいた。二人は大変愛し合っていたのだが、住む世界の違いは、強引に二人を引き裂いたんだ。彼には、良家からの縁談話があって、その娘も彼をえらく気に入っていたのだ。そのうち、良家の娘は、嫉妬から、お金を使って、彼女を殺してしまったんだよ。あの桜の木の下で。』
生徒達は、こんな話をする意図も分からぬまま、惹き込まれて行った。
『生きて行く力を失った彼は、ある夜、あの桜の木の下へ行ったんだ。彼はどうしても彼女に逢いたかった。その想いを、まるで何かに憑かれたかの様に、あの木に語りかけていた。と、その時、どこからか声が聞こえた。
「その愛が未来永劫変わらぬと誓うならば、命と引き換えに、その想いを叶えることを約束しよう。」
というものであった。彼は、ためらうことなく、あの桜の木の前で、自ら命を絶ったんだ・・・。』
陶酔したような藤原に、山城秀樹が、声をかけた。
『先生、なんでそんな話を今するんだよ?関係ないじゃん。』
我に返った藤原は、続けた。
『悪い悪い。つい入り込んでしまった。とにかく、そうして、彼も死んでしまったんだ。その声が何かは分からない、命と引き換えに約束したのは、
「100年に一度、この木の下で、二人を逢わせる。」
というものだった。それから、あの桜は、二人の想いが続く限り、100年に一度だけ、花を咲かせると言うんだよ。それが、20○○年3月21日なんだ。』
生徒達は、すっかりこの話にのめり込んでしまっていた。
『そこでだ。その日、ここへ集まって、確かめてほしいんだ。あの桜が咲くかどうかを』
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