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買い物の内容を見る限り、イギリスの代表的な料理であるフィッシュ・アンド・チップスとシェパーズパイ、あとは、茹で野菜に何か卵料理…といったところでしょうか。今は、大量のジャガイモが爆弾に見えます…。
「…アロマ」
「はい?」
レイトン先生がアロマさんを呼び捨てにしだしたのはつい最近のことです。
アロマさんはとても嬉しそうに返事をしました。
「その…簡単なもので構わないからね。焼いたベーコンに茹でた野菜、あとはパンにジャムと紅茶があれば充分だよ?」
「ええ、パイとフィッシュ・アンド・チップスは基本の料理ですから」
先生の抵抗もむなしく、アロマさんはジャガイモの皮を剥きはじめました。
「あの、ボク、手伝います!」
「ありがとう。でも大丈夫よ、座ってて」
最後の助け船も、輝く笑顔の前では泥船のように脆くも崩れ去ってしまいました。
謝罪とお詫びを込めて紅茶を入れましたが、先生の口数は減っていくばかりで、そんなときボクは己の力不足をひしひし感じてしまいます。
先生はアロマさんの背中を熱い目で見つめている…わけではなく、彼女の心配をしているのか、これから起こるであろう自身の不幸を嘆いているのか…。
ボクなら、間違いなく後者でしょう。
こうして見ているぶんには、アロマさんは手際が悪いわけではなさそうです。
もちろん元がお嬢様ですから、味覚がおかしいというわけでもないはずです。
なのに何故、出来上がった料理は…と、いつも不思議に思うのです。
ちなみにアロマさんは片付けも苦手です。でも、そちらは順調に慣れてきていました。
やっとボクも家事に関してはお役ご免かと思っていたのに、思わぬ落し穴があったものだ、と感じずにはいられないのです。
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