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「そういえば、先生」
改まった様子だったので、私はティーカップから彼女に視線を移した。
「なんだい、アロマ?」
彼女はとても真面目な顔でこう言った。
「先生は、どうして帽子をお取りにならないのですか?」
おっと、これはストレートな質問だ。
ルークにも何度か問われたことがある。もし彼がここにいたならば、便乗して私を質問攻めにすることだろう。
だが、生憎、と言うか幸いと言うか、彼は今日は来ていない。
アロマはじっと私の答えを待っていた。
「英国紳士としては、この帽子は外せないんだよ」
ウインクをする。彼女はちょっと笑ったが、納得はしていないようだ。
私は、彼女の入れた紅茶を飲んだ。おいしい。先程そう告げたとき、彼女は嬉しそうにはにかんでいた。
アロマはお嬢様育ちだからか、料理があまり得意ではない。得意でないどころか、あまりに独創的すぎて、なぜか食した者は例外なくしびれてしまうという特異な才能を持っている。
ルークは「アロマさんは、先生がもっともこだわりを持つ紅茶をおいしく入れたいって、猛勉強してましたよ」と言っていた。おそらく、ルークも協力していたのだろう。
「でも、先生はお食事のときも帽子をお脱ぎにならない。目上の方に挨拶するときも」
それは紳士としてよいのですか? 彼女の目がそう話している。
「先生、私なら大丈夫です。だから教えて下さい」
私は動揺した。彼女は知っているのだろうか?
いや、そんなことはない。もうだいぶ前のことだし、誰も知らないはずだ。
もちろん、ルークもアロマも納得させられるだけの理由はある。しかし、それはまだ、私の心の中に閉じ込めておいていたい。
すぐに冷静さは取り戻せた。
「アロマ、きみは何か推測して、もしかしたらそれが正解、あるいは正解に近いと思った。だからそんなふうに聞くんだね?」
図星のようだった。
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