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そんな歓声があがる観衆の中、一人の少年が一生懸命前に進んでいった。
「ご、ごめんなさい! わぁ、すいません!」
少年はずり落ちそうな眼鏡をかけ直しつつ、人の間を縫って進んでいく。
ついに少年は少女に一番近い金網までたどり着いた。
少年は、自分に背を向けて観客達に手を振っている少女を確認すると、大きく息を吸い込んだ。
「千春~!」
少年は大きな声で叫ぶ。
その声に気付いたのか、少女は少年を振り向いた。
「ち・は・る~!!」
少年はもう一度大声で叫ぶ。
少女は苦そうに顔を歪めると、ため息をついて観衆に言い放った。
「みんな~残念だけど今日はおしま~い! また見に来てね~!」
その言葉を聞いて、観衆たちはブーイングをしだしたが、一人、また一人と去っていき、数分後には広場の中心にたたずむ少女と金網の外にいる少年だけが残った。
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