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これから
いくら定年だからとて、四六時中家に居る訳じゃない。ちょっと金銭的に心配だから――する必要は無いんだけど、心配性なもんで――本屋の売り子を最近やりはじめた。本にカバーつけるのが何故か楽しいのなんのって。
「おじさん、最近バイトはどうですか? 板についてきました?」
「まだ足引っ張ってるだけだよ。これからこれから」
時刻は午後七時。今日も今日とて繭君は僕に夕飯を作ってくれた。それを今食べながら話をしている。
「繭君さ、彼氏さんとか居ないの?」
何気なく思った事を聞いてみる。と同時に後悔をした。もしかしたら、聞いて良い事じゃなかったかもしれない。
「えへー、おじさんがいるじゃないですかあ」
これにはまいった。思わず照れて、顔を赤くしてしまう。もちろん冗談で言ってくれたのは分かっている、分かっているさ。でもこんな年寄りに、若い娘がそんな事言ってくれちゃうとだな、やっぱ、嬉しいもんだよ。
「ありがとう」
僕が礼を言うと、僕よりもっと顔を赤くして、俯き、くすくす笑う繭君だった。
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