これから

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 風が優しい訳も、厳しい訳も無い。ただ吹くだけだ。けれども、人は穏やかさを優しさと、激しさを厳しさと、良く言い換える事が有る。これはどういった事だろうか。やはり人間、全てを自分と対等に考える事が出来るという訳であろうか。……いや、人間はすべからく下を探す生き物だ。全てでは無く、何の対象にも出来ない事象を、出来るだけ的確に、擬人的に、言葉に当てはめただけかもしれない。  「風が優しいですねえ」  今日は大学も休みな日曜日。僕は繭君と二人で登山に来ている。僕がたまには山を登ってみたいと口にした所、繭君が諸手をあげて賛成し、一緒に来てくれる事となったのだ。  「風は優しくも厳しくも無い。みんなに平等だよ」  「あはは、悟っちゃってますね」  途中にある休み所で、手頃な岩に二人一緒に座りつつ、所感を述べたら、笑われてしまった。そんなに可笑しな事を言ったつもりは無かったのだがな。まあ年寄りの言う事だ。そんなに気にはせんだろう。恐らくな。  「……でも、本当にそうかもしれません。優しさも厳しさも、無いんでしょうね、自然には。ただ、そこに有る、だけ」  君も悟ってるねと、からかってやりたかったが、繭君の横顔が何故か凜としていたので、止めておいた。
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