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登山は良いものだ。リュックサックを背負い、坂を登り降りする、その有酸素運動云々はともかくとして、四季折々の自然の様子を見て、息吹を感じとるという行為が、なんだろうな、とても心地良く思えるんだ。そうだな、心がすっきりすると言えば良いかな。
「私達って、親子に見られちゃってますかね」
二人仲良く歓談をしながら歩いていると、繭君は唐突に話を変えた。
「そうだね。それと、僕がうらやましいって思われてるかもしれない。君は可愛いからね」
「もう、上手なんですから」
贔屓目無しに、繭君は可愛い。顔も性格もだ。ただ問題なのが、身長が百七十五も有る事か。本人にとって背が高いのは、コンプレックスだという事を前に聞いたな。でも、僕と同じ身長だから、嬉しいとか。僕は当然にその台詞で赤面した。
「僕は、上手かどうかと言えば、下手だよ?」
「あ、あはははははははははは!」
多少狙ったのもあったのだが、ここまで笑ってくれるとは思ってなかった。
「笑うなんて酷い子だ」
「……あはっ。おじさんには敵いませんね」
何が敵わないのか分からないが、別に突っ込むべき所では無いだろう。から、話を同じ方向で続ける。
「まあ、何だ。僕みたいな下手が言って上手に聞こえるんだったら、繭君の存在自体が素晴らしいって事だよ」
屁理屈にすぎない臭い台詞を放ってみたのだが、
「いえいえ、もしかしたら私の耳がポンコツなのかもしれません」
と、返されてしまった。僕こそ、君には敵わない。君の足元に及ぶ事すら、いや、足元すら見えない。だから、君は僕の側になんて、本当は居てはいけないんだけどね。それを言うとまた怒るから、黙っておこう。
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