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山頂に辿り着くと、綺麗に映る地上が、そこいらじゅうに栄えていた。繭君は山に登るのがはじめてだと言っていたから、さぞかしとても良い気分だろう。僕も、出来れば昔の様に、感じたいな。
「頂の景色って、こんなに綺麗だったんですねえ」
辺りをきょろきょろと見渡しながら、僕に話しかけてくる繭君。僕はそんな繭君に、微笑を浮かべつつ、言葉を返す。
「うん、綺麗だね。……これはもしかしたらだけど、推測だけどさ?」
「はい」
推測というか体験談に近い事を、世間話の如く言葉にして紡ぐ。
「社会にまみれて、心を汚くした定年過ぎの爺婆は、そういった自分の汚れた心に幻滅して、自然を、綺麗な自然を、そこに有る自然を求めるのかもしれない。ずっと有った筈の自然と、自分の心を見つめて、自分を昔に戻そうって、綺麗だったあの頃に帰ろう、帰りたいって、思ってるのかもしれないよ。事実、推測なんて逃げながら言ったけど、僕がそうだ。僕は汚れてて、自分でも見ていられない」
この世は汚い。綺麗なのなんか、無いなんて断言しても過言ではない程に、汚い。人は綺麗を求めて、それ以上に汚れを手にする。
「そんな、ものですか。歳を取るって、生きるって、そんなに嫌な事なんですか?」
「生きるのが嫌な訳じゃない。生きていたのが嫌になるんだ。ほら、人間は生きる事に後悔する生き物だからね、何をしても後悔するんだよ。……後悔しない生き方って、どんなだろうね。多分それはきっと、幸せな生き方ってやつだろう。僕もそんな、生き方がしたいなあ」
生きるって何だろう。幸せってなんだろう。それは、多分、僕じゃないって事なのかもしれない。
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