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ビンに残ったサイダーは、午後の日差しを受けて、たぷんと安っぽいその色を揺らした。
僕はそれを目の前の墓石の上から、ばしゃばしゃとかけた。
冷たい石の表面をつたって、妙な色をした水は、シュワシュワいいながら土に染み込んでいった。
花束、大きすぎたね。
リーンゴーン…
ああ、頭がくらくらする
僕はリボンをといて、花を両手に掴むと、空へ向かって撒き散らした。
風が、からかうようにオレンジ色の花びらを連れ去っていった。
リーンゴーン…
ああ、でもね
今日は、これだけ言いたくて来たんだ
…鐘の音は止み、重低音の微かな振動だけがいつまでも頭の中で響いている。
「おかえり、ナランチャ」
オレンジ色の花びらが、まだ風の中に舞っている。
ただいま、と笑い出しそうなのをこらえたような、あの声が聞こえた気がして、僕は振り向かずに歩きだした。
午後の日差しは眩しくて、空を見上げるとやっぱり涙が滲んだ。
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