匂い

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薄暗い部屋のすみに置いてあるプレーヤーからは、もう廃盤になったレコードが静かに流れている。 いつだか、俺が好きだと言った外国のアーティスト。 「おかえり、泣き虫」 部屋の真ん中に置かれたソファに体を沈ませて、ホルマジオは笑った。 「ただいま、お節介」 鏡から半身だけ乗り出してぼそりとつぶやく。 俺の部屋に染み付いた匂いと同じ匂い。 おいおい、お節介はねぇだろ心配してやってんだぜ? ホルマジオは俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でながら笑った。 「うるさい、世話焼き」 同じだろうが、と笑いながらホルマジオはキッチンへ立つ。俺はその隙に今までホルマジオが座っていたソファのくぼみに、すっぽり体を沈める。 キッチンからは皿をだしたり、何かをあっためたりの音が聞こえる。 俺は目をいつの間にか閉じて、部屋中に染み付いた匂いを満足げに吸い込んでいた。 …このまま、眠ってしまってもいいかもしれない。 ゴツゴツした手が、俺の額に落ちた髪を払った時、ふわりと煙草の匂いが鼻をかすめた。 -fin
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