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電話が鳴っている。
トゥルルルル
トゥルルルル…
せっかく久しぶりに夢も見ないくらい眠れたっていうのに、なんなんだよ。
トゥルルルル
トゥルルルル
薬も使わずにこんなに穏やかな眠りについたのは、本当に久しぶりだ。
気分がいい。
例えるなら、ほら、何も予定のない土曜日の昼下がりに、見たいわけでもない映画とか見ながら、いつのまにかソファで眠っていた時のような。
トゥルルルル
トゥルルルル
悪いけど今は放っておいてくれよ。
トゥルルルル
トゥルルルル…
ダメだ、もう目を開けることすら億劫だ。
トゥルルル…
ガチャ
「メローネ?」
受話器もとっていないのに繋がった声に俺は飛び起きる。
なんだ、ギアッチョか。
それなら話は別さ。
「プロント?」
俺は受話器を耳にあてる。
「おい?聞こえてんのか、メローネ?」
「聞こえてるよ」
またイラついているらしいギアッチョの声の後ろからは、車のクラクションだとか、パトカーのサイレンだとかが騒がしく聞こえてくる。
「頼りにしてるぜ、」
メローネ、と呼ばれる名前は、ノイズにかき消される。
「悪いな、ギアッチョ」
俺は千切れたコードを指でなぞる。
「期待には応えられそうにないや、残念ながら」
この仕事をやっていて、穏やかな終わりを迎えられるなんて思っちゃいなかったし、みんなに見守られるなか眠るように、なんてナンセンスだ。
「…、……!!」
「うん、ごめんね」
ギアッチョは受話器の向こうでまだ何か言っているのだけど、ノイズがひどくてもう聞き取れない。
俺はひとりで苦笑して、だけど繋がってもいない電話を切る気にもなれなかった。
「…なあ、」
女々しいね。
未練だとか、やり残したことだとか、そんなことには正直たいして興味も無いのに。
途切れ途切れのお前の声に、必死で耳を傾けている。
「ディモールト グラツィエ」
おやすみ、ギアッチョ。
それから、叶うなら
リヴェデルスィ。
今までどおりまた明日。
笑いを含めてつぶやいた言葉は、どこにも届くこともなく、ただ足元に散らばった。
プツン、
ツーツーツー…
電話が、切れた。
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