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初流乃、
もう寝てる?初流乃
夜中、
狭い玄関で靴を脱ぎながら、奥の部屋に呼びかける。返事はない。
鞄を持って6畳間に踏み入れると、初流乃は電気もつけずに、二人掛けのテーブルの椅子の片方に、膝を抱えて座っていた。開きっぱなしの窓から吹き込む風が、微かに黒髪を揺らしている。
閉じられたままの瞳はまったく開かれる気配が無い。
僕は窓をしめてカーテンを引くと、そっと初流乃の肩にタオルケットをかけた。まったく本当にどこだって眠れる奴だ。
とりあえず水でも飲もうと、制服のまま冷蔵庫のドアに手をかける。
「…ジョルノ」
突然、名前を呼ばれ振り向く。初流乃が眠たげな目でちらりとこちらを見上げていた。
「…あ、起こした?ごめん、夕飯何か作っていけばよかった―」
「ジョルノ」
もう一度、初流乃が僕を呼んだ。僕は冷蔵庫に伸ばしていた手を離し、代わりに冷蔵庫に背を預けて正面から初流乃を見た。
「何?」
初流乃はしばらく考えてから、また膝を抱えると目を閉じた。
「…何でも、ない」
僕は、何だよそれ、と小さく笑いながら、やっぱり冷蔵庫のドアを開けた。
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