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『あの爺さんすげぇ。』
1人の男は興奮して、
「俺この目でしっかり見たぞ。爺さんがヤクザを睨んだだけで、ヤクザが怯んで逃げていったのを。」
と言い、もう1人は…、
「違う。俺はあの爺さんが持っている杖でヤクザを打ちのめしたのを見た。」
と、先程の男の言葉を否定し、また別の男は…、
「俺は爺さんがヤクザが持っていたドスを自分の手拭いで交わして、ヤクザを殴ったのを見た。」
と言った。
彼らも含めた野次馬の連中は、怒り心頭のヤクザに睨まれてしまうのがあまりにも怖かったため、現場からかなり離れた場所で翁たちを見ていたために詳しい状況がよく見えていなかった。
しかし、それぞれに男の意地もあったので自分の意見を通すのに躍起になっていた。
『俺のほうが正しい。』
そんな所へ、1人の男が通りかかった。
「…この騒ぎは一体なんなんだ。」
「すみません。ちょっと聞いてくれませんか。あの2人が私の言っていることが間違いだというんですよ。」
「いいや。旦那、私の話を聞いてくれ。先程、ヤクザが爺さんに絡んできたんだか、爺さんに睨まれて逃げて帰ったんだ。」
「でも、爺さんが睨んだだけでは、ヤクザもビビらないでしょう。ヤッパリ杖で応戦したんですって。」
…やがて、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった1人の男が喧嘩をふっかけた。
「何だとやるか―。」
「やれるもんならやってみんかい。」
「うるさ~い!!」
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