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「おい道男や。今から映画を見にいくぞ。」
「はい。」
どうやら少年の名前は道男というようです。翁は映画を鑑賞するのが趣味で、しょっちゅう道男を映画に連れていっているようでした。
道男自身も映画をよく観にいくためか役者の名前も少しはわかるようになっていました。
「おじいさんは本当に映画が好きですよね。ああそういえば、今日は実録忠臣蔵の初日ですね。確か、大石内蔵助役が歌舞伎役者の尾上松之助さんでしたよね。」
「そうそう、今回の忠臣蔵は尾上松之助が主役じゃからな。あやつは2枚目やし、動きがキビキビしているからどんな演技をするのか今から楽しみじゃわい。」
「…それにしても、近藤、土方は若くして亡くなってしまったが、自分は生き長らえたからこうして文明の不思議にありつけているわけだ…。」
「…おじいさんどうかされましたか?」
道男に声をかけられたことで、しばらく物思いにふけってしまったことに気付いた翁は慌てて
「…ああ、もうそろそろ映画が上映する時間じゃな。急がないと見逃してしまうぞ。」
「…はい、わかりました。」
(…おじいさん一体どうしたんだろうか)
道男は心に何かひっかかりを感じながらも翁と一緒に映画館に入っていった。
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