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「…ってぇ!」
おでこに辞書の角がもろに当たり、軽くめまいがする。
力いっぱい投げつけやがって!あの女!
軽く頭を振る。
バタン
再び玄関が開く音。しかし聞こえてきた声は、さっきのムカつく女のものではない。少し低めの、歳を重ねた女性の声だ。
「おはようございます。あら?雄人さん、転んだんですか?」
この年配の女性は、孝子さん。
両親が雇ったハウスキーパーだ。雄人が子供の頃から家で働いている。朝7時から夜10時まで、家の仕事をしている人だ。今は7時5分前、彼女はいつもこの時間に来る。
二階の廊下で座り込んでいる雄人を見て、孝子は不思議そうな顔をしている。いつもの雄人なら、まだ寝ている時間帯なのだ。その雄人が、何故か床に座り込んでいる。なかなか見ない光景だったろう。
「…あの野郎…」
これが2人の出会いだった。
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