3人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
嬢坂は走っていた。狂ったように笑う奴に対処する方法は学んでいない。
一気に1階まで駆け下りると、扉を開けようとした。あんなトチ狂った馬鹿は近くに1人で十分だ。
しかし、扉は開かなかった。
ドアノブは回る。鍵もしまってはいない。
だが、扉は壁と同化しているように微動だにしない。
「すぐに扉に向かうのは応用がないね。」
すぐ後ろから聞こえた。
振り返る前にしゃがむと、頭の上を今度はナイフが走った。
「ほら逃げて。ぼくの退屈しのぎにはまだ足りないよ。」
癪だが、確かにここは逃げるしか道がない。
下駄箱の間を縫うように走り抜けると、先ほど下ったばかりの階段を上り始めた。
その嬢坂の背を、声が追ってきた。
「Creeps in this petty pace from day to day.」
歌…だろうか。あまりそんなことを考えている余裕はなかった。
.
最初のコメントを投稿しよう!