第2話:文庫コーナー

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「……ありがとね」  笑っていた坂村さんは、まだその笑みを若干表情に表しながらそう言った。 僕の中で、黒いもやが大きくなっていく。 「川越君のお陰で、気が楽になったから」 「……」  渦巻く  大きくなる  また渦巻く  僕を覆う  もう僕の心をほとんど埋め尽くしている。  僕は、坂村さんの次の言葉を恐怖した。  だけど、その言葉は拍子抜けするほど簡単に、坂村さんの口から放たれた。 「……でも、ヤッパリ良い。じゃないと、迷惑かけちゃうから」 僕の心は、全て黒いもやで占められた。  自分が愚かで、ちっぽけで、情けない存在だということを改めて突きつけられた。 ――迷惑かけちゃうから  坂村さんはそう言った。健に、ではないだろう、多分僕に、だ。  放って置いて欲しい、というわけでもないはずだ。きっと、坂村さんは求めている。  助けてくれる人を。  思いを伝えたい人を。  絶対に求めている。  でもそれが叶わないと割り切って、自分の胸に秘めて、吐き出すことのないまま、ずっとため込まれたままになる。  僕には分かる。  さっきまで、僕がそうだったから。
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