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「……ありがとね」
笑っていた坂村さんは、まだその笑みを若干表情に表しながらそう言った。
僕の中で、黒いもやが大きくなっていく。
「川越君のお陰で、気が楽になったから」
「……」
渦巻く
大きくなる
また渦巻く
僕を覆う
もう僕の心をほとんど埋め尽くしている。
僕は、坂村さんの次の言葉を恐怖した。
だけど、その言葉は拍子抜けするほど簡単に、坂村さんの口から放たれた。
「……でも、ヤッパリ良い。じゃないと、迷惑かけちゃうから」
僕の心は、全て黒いもやで占められた。
自分が愚かで、ちっぽけで、情けない存在だということを改めて突きつけられた。
――迷惑かけちゃうから
坂村さんはそう言った。健に、ではないだろう、多分僕に、だ。
放って置いて欲しい、というわけでもないはずだ。きっと、坂村さんは求めている。
助けてくれる人を。
思いを伝えたい人を。
絶対に求めている。
でもそれが叶わないと割り切って、自分の胸に秘めて、吐き出すことのないまま、ずっとため込まれたままになる。
僕には分かる。
さっきまで、僕がそうだったから。
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