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――本当に?
また聞こえる。さっきまでの僕の中にいる何かとは少し違う。まるで外から聞こえるような、そんな感覚の声だ。
――本当に?
ただただ同じ言葉が繰り返される。その声を聞く度に、僕の鼓動が大きくなる。
僕はその声に一瞬恐怖し、そしてそれはすぐ怒りに近いものとなった。
――本当に?
当たり前じゃないか。僕に何ができるってんだ。本当にだって?だったら教えてくれよ。どうしたらこの黒いもやから逃げられるんだ?どうやったら坂村さんを助けられるんだよ?
声は答えない。ひたすらに、質問を投げかけてくる。
――本当に?
そうとも、本当さ。
――本当に?
しつこいぞ。
――本当に?
うるさいな。何も教えてくれないんだったら消えてくれ。
――本当に?
いい加減にしろ!僕に何ができるんだよ!僕なんかに何をさせるつもりなんだ!僕なんかに、僕なんかにどうにかできるものなんて……
あった。
たった1つだけ、あった。
僕が久しぶりに親父に感謝して受け取った物。
僕が乗り気じゃない健に差し出した物。
僕が加奈崎さんに渡そうとして、見事に失敗に終わった物。
今、僕のポケットに入ってる物。
いつの間にか、うるさい声は聞こえなくなっていた。
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