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「坂村さん!」
僕は走り出した。無意識のうちに走り出していた。
坂村さんとの距離はたったの数十メートル。走るような距離じゃない。それでも、全速力で走った。
「坂村さん!」
名前を叫ぶ。向こうも僕に気づいたようだ。驚いた表情で僕を見ていた。
「坂村さん!」
「え、何?」
目の前まで来た。たった数十メートルの距離で、僕は息を切らしていた。
「あの……」
ポケットに手を突っ込む。そして紙2枚の紙に触れる。
親父から貰った3枚の紙。
そのうち2枚は僕が持っている。
そして残りの1枚は……
恥とか、ためらいとかは全然無かった。
黒いもやがそれらを隠していたから。それらを感じる事が出来なかったから。
無我夢中だったから。
「これ!」
僕は坂村さんに1枚の紙切れを差し出した。
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