第3話:重いドアの先

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元々人付き合いも良く誰とでも気軽に話していた坂村さんだ。彼女の転校は、それはもうクラスメート達を騒然とさせた。ショックや悲しみで泣き出している人もいた。 どうやら、坂村さんの転校を知っていたのはクラスで本当に僕だけだったようだ。 転校を告げた時の坂村さんは笑っていた。でも、それが作り笑いだと、鈍い僕でも分かった。それとも、デパートでの件があったからだろうか? 見ていられなかった。悲しみを押し殺して、その上にある笑顔だった。僕には、どうしてもにじみ出る表情の奥の悲しみが見えてしまっていた。 それを思うと、今の坂村さんの表情はホント綺麗だ。純粋に笑っているその笑顔からは、悲しみなんて見えるはずもない。 坂村さんを旅行に誘ったのは、正解だった。 「それにしても、船に乗るのって久しぶりだなぁ」 「へぇ、真奈美ちゃん、前にも乗ったことあるんだ?」 「うん、中1の時に船で中国行ったことあるんだ。あの時は向こうの言葉全然解んなかったなぁ」 「……ち、中国…」 「外国かよ……」 僕と健は揃って同じような言葉を呟いた。呟いて、次に何を言おうか、口が止まってしまった。 そんな沈黙した僕らを見て不思議に思った坂村さんは、少し考え込んだ後、あ、そうかていう顔をして、一言。 「今も中国語はサッパリだけどね」 思っていた通りの、論点がズレた答えが返ってきた。 違うよ坂村さん、僕らはそこは問題にしてないから。 「後はずっと飛行機だったなぁ。ハワイまで行ったときはずぅ~~っと乗ってなきゃ行けなくてね。嫌だったなぁ」 「欧米か!」とツッコミたくなるのはこういう時なんだろう。僕はしみじみとそう思った。 にしても、坂村さんは凄い。 僕なんか、旅行の記憶なんて車で県内のドライブか、小学校と中学校で一回ずつあった修学旅行くらいだ。隣で固まってる健も、多分それくらいだろう。     良かったな、健。 逆玉の輿じゃねえか。    
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