第3話:重いドアの先

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広いエントランスホールには僕らのような乗船客の他に、黒い礼服をまとった男女が5人ほどいた。 見た目で察するに、各所に配置された接客専用の船員なんだろう。 「ちょっと待ってて」 僕は2人にそう言って、僕らから1番近い所に立っていた、若い男性の船員の方に歩き、声をかけた。 「あの、すいません」 「はい、何でしょうか」 若い船員はこちらに向くと行儀良くそう返した。若い表情には僕ほどではないが少し幼さが残っており、ビシッとキメたスーツもなんだか「着せられている」ように見える。 喋っている敬語さえ、聞いているとなんだか違和感がある。 とりあえず、僕は本題の部屋の場所を聞く事にした。 「え、と231番と232番と233番の部屋ってどこにありますか?」 「231…ですか。それならあの階段を右に登って少し歩いた辺りにありますよ」 そう言って若い船員は、Y字型の巨大階段を指差した。 「残りのお部屋もすぐ近くです。案内致しましょうか?」 「あ、いえ結構です」 「そうですか。また何かあったら、いつでもお申し付けください。」 「はい、ありがとうございます」 そう言って僕は若い船員の所から立ち去った。案内されるのが嫌ってわけじゃない。道なら教えて貰ったし、他に部屋が分からない人もいるだろうと思ったからだ。 「おまたせ」 「あ、部屋、分かったの?」 「うん、船員さんに教えて貰ったよ」 「うし、じゃ、行くか」 「そうだな」 そう言って僕は歩き出した。やっぱりさっきみたいに、健と坂村さんも付いてきた。    
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