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広いエントランスホールには僕らのような乗船客の他に、黒い礼服をまとった男女が5人ほどいた。
見た目で察するに、各所に配置された接客専用の船員なんだろう。
「ちょっと待ってて」
僕は2人にそう言って、僕らから1番近い所に立っていた、若い男性の船員の方に歩き、声をかけた。
「あの、すいません」
「はい、何でしょうか」
若い船員はこちらに向くと行儀良くそう返した。若い表情には僕ほどではないが少し幼さが残っており、ビシッとキメたスーツもなんだか「着せられている」ように見える。
喋っている敬語さえ、聞いているとなんだか違和感がある。
とりあえず、僕は本題の部屋の場所を聞く事にした。
「え、と231番と232番と233番の部屋ってどこにありますか?」
「231…ですか。それならあの階段を右に登って少し歩いた辺りにありますよ」
そう言って若い船員は、Y字型の巨大階段を指差した。
「残りのお部屋もすぐ近くです。案内致しましょうか?」
「あ、いえ結構です」
「そうですか。また何かあったら、いつでもお申し付けください。」
「はい、ありがとうございます」
そう言って僕は若い船員の所から立ち去った。案内されるのが嫌ってわけじゃない。道なら教えて貰ったし、他に部屋が分からない人もいるだろうと思ったからだ。
「おまたせ」
「あ、部屋、分かったの?」
「うん、船員さんに教えて貰ったよ」
「うし、じゃ、行くか」
「そうだな」
そう言って僕は歩き出した。やっぱりさっきみたいに、健と坂村さんも付いてきた。
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