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30分余りを費やして坂村さんの誤解を2人で解いた後、僕らはもう一度エントランスホールにやって来た。
まだ出発したばかりだからだろう。接客専用の船員の人達がせっせとあちらこちらへ動いている。さっきの若い人も見ることができた。
エントランスホールはただ1つ、つい1時間前に僕らが入ってきた扉が閉められているだけで、他は全く変わらない、大理石に包まれたきらびやかな空間だった。その中央の金色の階段を跳ねるように降りながら、坂村さんがはしゃぐ。
「あっちの通路、甲板に繋がってるんだって!ね、ね、行ってみよ!?」
急かす坂村さんは、子供のような表情をしている。「お菓子あげるからおいで」なんて言ったら、ホイホイついていってしまいそうだ。
「ほら、早く早く!」
じれたのか、坂村さんは両手で僕と健の手を取ってクイッと引っ張る。女の子が自分の手を引っ張るという状況に少しドキドキして、健の方を振り向いた。
しょうがないな、と言わんばかりの苦笑を、健は漏らしていた。
「うし、ほいじゃ行きますか」
軽いノリで坂村さんに続く健。さすがというかなんというか、女子の対応になれている。1人で焦っている僕をよそに、2人は階段を降りていった。
「あ、ちょっと2人共、待ってくれよ!」
なんだか、自分が無性に情けなく思えてきた。
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