第3話:重いドアの先

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「ん~~、良い風~~」 ぐっと背伸びをする坂村さん。今は白いワンピースではなく、薄手の桜色シャツにジーンズという、またもやいまひとつ肌寒いような格好である。もしかして坂村さんは暑がりなのだろうか。 僕らが甲板にやって来る頃にはすでに先客が何人書いた。きゃあきゃあはしゃぐ2人の子供が僕ら3人の前をよぎっていく。 「ね、ね、2人とも!もうちょっと先の方に行こ?」 そう言って走り出す坂村さん。もう1人いたよ。はしゃぐ子供が。 室内ではそんなに揺れを感じなくても、それが甲板となるとだいぶ違ってくる。前に進んでいるのが目で確認できる分、船内よりも気持ち悪く感じるらしい。 でも、甲板には風が吹いている。揺れるのは嫌だが、この爽やかさは嫌いじゃない。だから僕は、そんなに気分を害さずに甲板の先端まで歩く事ができた。 坂村さんが先端の格子に手をかけて下を覗き込む。僕と健も同じように覗く。 船の先端は、まるで刀の切っ先のようだった。鋭く尖った部分に波が直撃し、若干白く濁りながら横にそれていく。他の2人はどうか分からないが、僕にとっては新鮮な光景だった。 不意に僕の腰になにかが当たった。そちらに振り向くと、健が肘で突っついていた。 「なんだよ健、どうかしたのか?」 なんだか周りには聞かれたくない話らしい。僕も自然と小声になる。 「おい悠輔、今がチャンスだぞ」 「何の?」 「何ってお前この状況で分かんねぇのか?タイタニックだよタイタニック。ほら、行ってこい」 ………… 一体こいつは何を考えてるんだ?    
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